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札幌地方裁判所 昭和39年(ワ)591号 判決 1969年8月28日

原告 黒崎清一 外一名

被告 株式会社柳生商店 外一名

主文

一、被告らは原告らに対し別紙目録(一)記載の土地(別紙図面表示の斜線部内)につき、原告らと被告柳生市郎間の使用貸借契約に基き、原告らが通行の用に供するため使用する権利を有することを確認する。

二、被告らは別紙目録(一)記載の土地に自動車を駐車させ、塀、シヤツターを設置し、物品を置くなどして原告らが右土地を通行することを妨害してはならない。

三、原告黒崎清一の囲繞地通行権に基く請求を棄却する。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一、1 原告黒崎

第一次請求

「被告らは原告黒崎に対し別紙目録(一)記載の土地につき同原告が囲繞地通行権を有することを確認する。被告らは右土地に自動車を駐車させ、塀、シヤツターを設置し、物品を置くなどして同原告が右土地を通行することを妨害してはならない。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決。

第二次請求

主文第一、二項中原告黒崎に関する部分及び第四項同旨の判決。

2 原告息才

主文第一、二項中原告息才に関する部分及び第四項同旨の判決。

二、被告ら

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二原告黒崎の請求原因(この項において「原告」とは「原告黒崎」を指す)

一、相隣関係による囲繞地通行権確認

1  原告は昭和二八年四月二七日別紙目録(二)記載の土地及び建物を所有者坂ミシより買受け、次男七郎名義で所有権移転登記手続をなし、昭和三二年七月一六日自己名義に所有権移転登記をなした。

原告の買受にかかる右土地の位置関係は別紙図面表示の横線部分のとおりであるが、このうち二一番の七一九の土地は坂が二一番の六の土地よりその東方部分三五坪(東西五間、南北七間)を分筆したもので、原告は右二一番の七一九の土地とその西に隣接する別紙図面表示の現二一番の六の土地七坪(東西一間南北七間)を坂より買受けたものである。なお、右譲受当時、二一番の六の土地は別紙図面表示の二一番の六、同番の七四四、同番の七四五の土地全部を含んでいたが、その後別紙図面表示のように分筆されたのである。

2  別紙図面表示のとおり、原告が買受けた二一番の七一九、同番の六の土地は袋地であり、右袋地は当時の所有者である坂が二一番の六の土地から同番の七一九の土地を分筆し、これと残余の二一番の六の土地のうち東側七坪(現二一番の六)を原告に売渡した結果生じたものである。そして、囲繞地のひとつである二一番の七の土地は当時坂の所有であつたから、右のような経過で袋地所有者となつた原告は民二一三条二項一項により二一番の土地の東側に存する別紙目録(一)記載の東西七尺七寸南北七・五間の土地(別紙図面表示の斜線部分、以下「係争地」という。)を無償で通行する権利を有する。なお、右法条による通行権は、分筆された土地についてのみ生ずるものと解すべきではなく、本件のように他の囲繞地も分筆地の所有者に属するものであれば、その土地についても生ずるものと解すべきである。

3  被告柳生は昭和三〇年一二月一六日坂より係争地を含め二一番の七の土地を買受け、原告のために係争地につき生じた右囲繞地通行権を当然承継すべき関係にあるにもかかわらず後記三のとおりこれを否定する態度に出ている。また、株式会社柳生商店(以下「被告会社」という)も同様これを否定して後記三のような行為をしている。よつて、原告は被告らに対し係争地につき右通行権が存在することの確認を求める。

二、使用貸借による通行権確認

仮に前記一による通行権が認められないとしても、原告は坂から二一番の七一九及び同番の六の土地を買受ける際、同人との間において、同人所有の係争地につき、原告が無償で通行の用に供することを内容とする使用貸借契約を締結し、以来、係争地についての通行権を取得した。その後二一番の七の土地を買受けた被告柳生は右使用貸借の貸主としての地位を承継した。しかるに、被告ら後記三のとおり原告の係争地の通行権を否定しているので、原告は被告らに対し右通行権が存在していることの確認を求める。

三、被告らの通行妨害

1  昭和三五年八月頃当時被告柳生が代表取締役をしていた被告会社は、原告ら係争地利用者に対し「被告会社が二一番の七の土地に社屋を建築することになつたが、原告らの係争地の通行はガード式通路を作つて確保するから、社屋建築に同意してほしい。」旨申入れ、原告らは係争地通行が確保できるということであつたので、これを了承した。

2  被告会社は、その頃から二一番の七の土地上に四階建の社屋建築に着手し、昭和三六年六月頃これを完成し、係争地部分をガード式通路として残した。しかし、同年八月一五日に至り、被告らは原告ら係争地利用者に対し「ガードを車庫として利用するため、ガード入口に扉をつけ、午後一〇時以後は施錠する。」旨申入れた。

3  原告ら係争地利用者は通行の妨げになるとして、これを拒んだが、被告らはその後もこれを強行する気配があり、また、自動車を駐車させ、物品を置くなどして原告らの通行を妨害するおそれがあるので、そのための措置として、主文第二項同旨の請求をする。

第三原告息才の請求原因(この項において「原告」とは「原告息才」を指す)

一  使用貸借等による通行権確認

1  別紙目録(三)記載の建物は中西保が昭和二八年四月二日坂ミシより買受け、次いで原告が昭和三四年五月三〇日中西からこれを買受けてその所有権を取得した。右建物は別紙図面表示の縦線部分の位置にあり、その北側にも建物があつて、居住者が係争地を通行する以外の方法によつて公路に出ることは困難であつたので、中西は坂から右建物を買受ける際、同人との間において、同人所有の係争地につき無償で通行の用に供することを内容とする使用貸借契約を締結して、係争地の通行権を取得した。

その後被告柳生が昭和三〇年一二月一六日係争地を含め二一番の七の土地を買受けた際、係争地の右使用貸借上の貸主としての地位を承継した。次いで、原告が前記のように右建物を買受けた際、被告柳生の承諾の下に右使用貸借の借主としての地位を承継して、係争地の通行権を取得した。

2  仮に、原告が係争地について右通行権を取得しなかつたとしても、被告会社は昭和四二年一〇月二三日右建物敷地である二一番の一四の土地を買受け、以来原告は被告会社より右敷地を賃借している。このように、被告会社は原告の居住する右建物敷地の所有者となつた以上、賃借人である原告が賃借土地をその使用目的(建物所有)に従つて使用できるように配慮すべきは当然の義務であり、被告会社及びこれと一体関係にある被告柳生が原告に対し通行のため係争地の使用を認めないことは権利の濫用として許されない。

3  しかるに被告らは原告に対しても第二の三に述べたような挙に出て係争地につき生じた原告の通行権を否定している。よつて、原告は被告らに対し右通行権が存在することの確認を求める。

二、被告らは原告に対しても第二の一の3記載のような態度を示して係争地通行を妨害しようとしているので、その予防として主文二項同旨の請求をする。

第四被告らの答弁

一、第二の一の1の事実は認める。同2の事実のうち二一番の七の土地がもと坂の所有であつたこと及び土地の分筆関係は認めるが、その余の事実は否認する。同3の事実のうち被告柳生が坂よりその主張の日時に二一番の七の土地を買受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。同二の事実は否認する。同三の1の事実のうち、被告会社が原告ら主張のような申入をしたことは否認する。同2の事実は認めるが、同3の事実は否認する。

二、第三の一の1の事実のうち、別紙目録(三)記載の建物の位置及び同建物の所有権がその主張のような経過で中西から原告息才へ移転したこと、被告柳生が二一番の七の土地を買受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。同2の事実のうち被告会社が二一番の一四の土地を買受け、これを原告息才に賃貸していることは認めるが、その余の事実は否認する。同二の事実は否認する。

三、原告黒崎の所有地は二一番の六の土地から分筆されてはじめて袋地となつたものであるから、右分筆とは無関係の二一番の七につき囲繞地通行権は生じない。また、原告らは他の通路を利用すれば公路に出ることができるから、原告らにとつて必要性の乏しい係争地につき被告柳生がその通行を容認することは考えられないところである。

第五証拠関係<省略>

理由

一、原告黒崎の囲繞地通行権について

原告が坂ミシより二一番の七一九及び同番の六の土地を買受けた経緯、右土地の位置関係及び分筆関係に関する原告の請求原因一の1の事実は当事者間に争いがない。

そこで右二一番の七一九及び同番の六の土地が袋地であるかどうかについて判断すると、右両土地は別紙図面表示のように公路に面していないことは明らかであるが、証人堀合末太郎の証言によれば、原告が前記土地を買受けた当時、別紙図面の二一番の七と現同番の七四四(当時二一番の六)の両土地にまたがつて幅一間ないし二間の空地が西側の公路である電車通りまで続いていて原告はここを通路として利用しており、右空地の当時の所有者であつた坂ミシも右利用につき格段の異議をさしはさまなかつたことが認められる。この事実によれば、右二一番の七一九及び同番の六の土地が袋地であつたと認めることはできない。

二、原告らの使用貸借による通行権について

1  坂と原告黒崎及び中西間の係争地の使用貸借

証人黒崎八郎及び中西保の証言によれば、原告黒崎は前記のように二一番の七一九及び同番の六の土地を買受けた際、同地上の建物も買受け以来これに居住しているが、後記2の(ロ)のような事情のため売主坂より当時同人所有であつた二一番の七の土地の東端部にある係争地を無償で期限の定めなく通行の用に供する目的で借受け、また、中西保は昭和二八年四月二日坂から別紙目録(三)記載の建物を買受けた際(右買受の事実は当事者間に争いがない)、坂との間で後記2の(ロ)のような事情のため坂より係争地につき前同様の使用貸借契約を締結したことが認められる。

2  被告柳生による右係争地の使用貸借の承継

成立に争いのない乙第四号証、被告会社代表者柳生伸一本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第五ないし第七号証、証人黒崎八郎、堀合末太郎、中西保、堀合キヌの証言及び原告息才和夫の本人尋問の結果及び検証の結果によれば、

(イ)  原告黒崎と坂との間に前記使用貸借成立当時既に係争地の西側に塀がめぐらされていて係争地と二一番の七の土地の他の部分とは区別され、二一番の七以南の土地から北一八条中通りの公路へ通ずる通路としての外観を呈していたこと。

(ロ)  原告らが北一八条中通りの公路へ出るためには係争地を利用するほか、別紙図面表示の原告息才と藤井、呉羽の建物の間を抜けて呉羽方の東側通路を利用することも絶対不可能ではないが、原告息才と藤井・呉羽方の建物の間には別紙図面表示のように物置が三棟あり、その間を通路として利用できる幅は二メートル前後であつて、冬期の積雪時となると降雪や屋根からおろした雪のため通行することは著しく困難となること、また、原告らにとつて係争地を利用することが距離位置関係からみてはるかに便利であること。

(ハ)  右(ロ)のような事情であるため原告ら及び中西その他近隣の者は北一八条中通りの公路へ出るため常時係争地を通行の用に供していたこと。

(ニ)  昭和三五年七、八月頃、当時被告柳生が代表取締役をしていた被告会社が係争地を含めた二一番の七の土地に四階建の社屋を新築するに当つて、被告らは原告息才を除き原告黒崎その他近隣の係争地利用者に対し「右土地全部の上に社屋を建築するが、通路部分である係争地はガード式にして通行に支障をもたらさすことはしない」旨を申入れ、その了承を得て社屋建築に着手していること

が認められる。以上のような係争地の通路としての外観、その近隣の地形及び建物の状況、原告ら近隣者の係争地の利用状況等は、特段の反証がない以上被告柳生において当然これを認識していたものと認めるべきである。そして、それにもかかわらず、被告柳生は後記三のような紛争発生に至るまで原告らの係争地通行に異を唱えたものと認むべき証拠はなく、かえつて、前記(二)のように係争地の利用者にガード式通路とすることにつき了承を求めている程であるから、被告柳生は二一番の七の土地を買受けた際、坂より係争地利用についての原告黒崎及び中西に対する前記使用貸借の貸主としての地位を承継し、また、原告息才が中西より前記建物を買受けた際、被告柳生と中西間の右使用貸借関係は被告柳生と原告息才間に承継されたものというべきである。もつとも、前記(ニ)の事実関係においては原告息才が除外されているが、係争地利用関係においてみる限り原告息才も原告黒崎を含めた他の近隣者も同一条件下にあるものと認められるから、単に原告息才が除外されたからといつて、そのことだけで、被告柳生が原告息才との関係においてのみ前記使用貸借関係を承継しなかつたものと認めることはできない。従つて原告らは被告柳生との間の使用貸借に基き係争地を通行のため使用する権利を有するものということができる。しかして、後記三認定のとおり、被告柳生及び被告会社は、原告らの右権利を否定し、その通行を妨害する態度に出ているのであるから、被告らに対し右通行権の確認を求める原告らの請求は理由がある。

三、証人黒崎八郎の証言及び原告息才和夫本人尋問の結果によると、被告会社は社屋完成直後から係争地に常時自転車、商品などを置き、更に一、二年後からは数台の自動車を駐車させて車庫代りに駐車させたため、原告らはその通行に不便をきたしたこと、そこで、原告らは被告会社に対し、しばしばその撤去を求めたが応ずるところとならなかつたこと、一方、被告柳生は、係争地が自己の所有地であることを理由に、ガード式となつた係争地入口にシヤツターをつけ夜間は車庫代りとし、昼間も開放しておくが通行することは認めない旨を通告し(右通告の事実は当事者間に争いがない)、原告らがこれを拒絶したにもかかわらず、その後も係争地には右のように自動車等が置かれ原告らの通行に支障をもたらしていることが認められる。

この事実によると、被告らは原告らの前記使用貸借による通行権を否定し、原告らの通行を妨害し、また、将来において同様の方法によりこれを続けるおそれがあるものと認めて差支えない。

従つて、原告らが使用貸借上の権利に基き被告らに対しその主張のような方法により原告らの通行を妨害しないことを求める請求は理由がある。

四、なお、

係争地についての使用貸借の当事者は原告らと被告柳生であつて、被告会社は形式的には第三者であるが、前記のとおり、被告柳生は被告会社の代表取締役の地位にあり現代表取締役である柳生伸一もその親族であると推認され、いわば被告らは一体関係にあるものと認められるし、また、前記二の2の(ニ)の事実によれば、被告会社も原告ら係争地利用者の通行権を認めてその通行確保を約して社屋建築に着手したものと認められるのであるから、かかる事実関係の下にあつては、原告らは契約当事者外である被告会社に対しても、前記のようにその契約関係に基く通行権の確認を求め、かつ通行妨害をしないことを求めることができるものと解するのが相当である。

五、以上の次第であるから原告らの本訴請求中原告黒崎の囲繞地通行権に基く部分を失当として棄却し、その余の部分を正当として認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松野嘉貞)

(別紙)

目録 (一)

札幌市北一八条西四丁目二一番地の七

一、宅地一三五坪のうち東側東西七尺七寸南北七・五間の部分(別紙図面表示の斜線部分)

目録 (二)

(1)  札幌市北一八条西四丁目二一番地の七一九

一、宅地三五坪

(2)  同番地の六

一、宅地七坪

(右宅地は別紙図面表示の横線部分)

(3)  同番地 家屋番号一二番の四

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅床面積一三坪二合九勺

目録 (三)

札幌市北一八条西四丁目二一番地

家屋番号一三番の二

一、木造柾葺平家建居宅床面積一一坪二合五勺

(別紙図面表示の縦線部分)

図<省略>

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